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木造福祉施設 Wood Frame Construction Social Welfare Facilities

社会福祉法人 永生会 明治清流苑

COLUMN | 心と五感にはたらきかけてくる不思議な力。辞めるスタッフもいなくなりました。

社会福祉法人 永生会 明治清流苑 写真3-1

社会福祉法人 永生会 明治清流苑
施設長 児玉 末美さん

風車の羽根のような十字型の建物は、全体に風通しをよくして、4つに区分したどのユニットにも日が射すよう配慮したユニークな設計で、一カ所から各ユニットに目を届かせやすいという利点もあります。設計段階での想定以上に明るく風通しがよく、エアコンに頼らずに夏は涼しく、冬は暖かさが持続する空間が実現しました。さらに時間がたつにつれ、入居されている方とスタッフの内面に、数値に表せないうれしい変化が見えてきたのです。

ある認知症の方。別棟の施設でお世話をさせていただいてきましたが、断続的にあげる奇声が止まず、ご家族も担当の職員もかなり疲労困憊していました。別棟はRCの建物です。こちらでユニットケアをはじめるに際して、その認知症の方に居室を移っていただいたのです。住空間は変わりましたが担当のスタッフも対応も変わりません。ところが少しして予想外の展開になりました。...奇声がほとんど止まったのです。それまでどんな対応をしても変わらなかったのに、これには驚きました。明らかに精神的に落ち着かれたということですね。職員もノイローゼ寸前のところで救われました。私が推測するに、きっと木造の音の響き方のちがいによる効果ではないでしょうか。木造は音がキンキンと響くことがなく、ふだんから何となくリラックスした雰囲気が漂います。人がたてる音だけでなく、雨の音、風の音、鳥や虫の声、ここではみんな穏やかに伝わってきます。

ただ、ツーバイフォーは横方向の音や振動は完全にシャットアウトしますが、上の階の振動は若干ですが聞こえてきます。それが気になる方がいないか、私も当初は心配で皆さんに聞いて回りました。すると“音は聞こえることもあるけど、家にいたら自然に聞こえてくる音だから気にならないよ”と好意的な意見ばかり。安心しました。音のちがいは職員たちの動きにさらに変化をもたらしました。鉄筋の建物ではみんなナースシューズを履き、パタパタと慌ただしく動き回ってきました。シューズを履いているのは、カタい床からの衝撃を柔らげるのと、たとえばベッドのキャスターのストッパーの上げ下げとか足を保護する必要がある動作のためです。仕事がデキる人ほど慌ただしい動きをしているものです。ところが木造のこの施設では、床が柔らかく音も静かなせいで、職員みんなの動作がおだやかに、細やかになるという現象を生んでいます。せわしくなくなった結果、足の動作もゆっくり確実となり、家庭用のスリッパで十分仕事ができるようになりました。夏などはスリッパも脱いでハダシになっているスタッフもいるくらいです(笑)。利用者の方々からは“職員さんがキツい顔をして急いで通り過ぎることがなくなって話しかけやすくなったよ”との反応が。職員の動きと内面的な変化を、利用者はちゃんと感じ取っているのですね。

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ユニットケアのいいところは“生活感”があることです。足下ひとつ変えたことで利用者に施設にいる思いを軽減できたのです。ならばもっと自宅のように思ってもらおうと、職員によるマナー委員会で話し合い、『ケアワーカーも看護師も私服のまま仕事してOK』と規則を変えてみました。この試みも思った以上に効果を上げています。“あんたの今日の服の色、いいねェ”...服装の話題がコミュニケーションをとるキッカケになっているのです。若いケアワーカーと歳の離れた高齢者とではなかなか共通の話題がないものですが、服の色やかたち、食べ物の話ならお互いに自然とできますから。

木造による物理的な環境の変化は、精神面・心理面にも連鎖して、入居者と職員の両方に数々のプラスの効果をもたらしているのです。実はこの数年、辞めていくスタッフがいなくなりました。これも木造が人におよぼす何かいい力がある実証かもしれませんね。

■安東 斉和さん(ケアスタッフ)

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1ユニットは利用者10名、スタッフ5名という配置。

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個室に床続きで併設されたトイレ。襖風の折れ戸で開け閉めする。この、トイレがすぐ横にあることを感じさせない仕切りの工夫、介護する人の動作を考えたスペースの確保、トイレの角度など、研究に研究を重ねた設計。

地震速報?えっ本当?

「僕の実家はいわゆる“建て具屋”なんです。ですから子どもの頃から木造の建築現場とかよく見てました。2005年の11月からこの建物の工事がはじまったのですが、僕も仕事の傍ら気になって、まだ建材むき出しのフレーミングの段階から建築中のようすを垣間見てきました。自分にとっては目になじんだ光景というか、ふつうの家みたいな感じで、施設を建ててるとは思えませんでしたね。僕個人としても木造が好きですし、相談員として自信をもってご家族の方にこの施設の物理的なメリットと、感覚的なここちよさを説明しています。」

明治清流苑に配属になる前に、同グループの他の施設で約10年仕事をされてきた安東さん。初めてツーバイフォーで建てられたこの“家”がもつ特性を、ケアのプロの立場から冷静に捉えています。

「まず誰もが感じるように床が柔かいんですね。働く健常者の立場としても足腰は確かに疲れにくくなりましたよ。あと、強い風雨の時に耳がツ~ンとならないんです。日常周囲にある音の響き方、伝わり方が鉄筋とはちがう。なんと言うか、音が丸いんです。さらに大きな要素として、想像してた以上に頑丈であること。たとえば地震が起きると、今ではすぐ速報が入ってきますよね。すると伝えられた震度ほどみんなほとんど揺れを感じてないんです。耐震性・耐久性の高さはツーバイフォーの特徴の一つだけれど、実際の揺れでその効果を実感できて何とも頼もしい感じですね。」

しかし、木造ゆえに手間がかかる一面があることを安東さんはしっかり指摘されます。「床がキズつきやすいので、イスや什器の移動は気を付けなければいけませんね。特につい引きずってしまうイスかな。あと軸組の在来工法といっしょで、寸法に若干の遊びがありますね。開所してそろそろ4年ですが、開きにくいドアとかでてきていて、すでに手直ししたりしています。まあ、どの手間も木造の家と共存していくためには常識の範囲ですけどね。これから年月が経って、全体的にどういう変化が起こって、それに対してどんなメンテナンスが必要になってくるか、注意していかなければいけませんね。」

日本は木の国でむかしから馴染みがあるのだから、いずれ木にもどるはず、と安東さん。介護のプロと建て具屋さんのご子息という両方の厳しい目をもって、これからも評価とご指摘をお願いします。

社会福祉法人永生会明治清流苑

社会福祉法人 永生会 明治清流苑 写真3-5
  • 特別養護老人ホーム(定員47名)、ショートステイ(定員13名)、デイサービスセンター、介護予防センター
  • 建築場所/大分県大分市大字猪野729番地1
  • 敷地面積/6931.84m2(2096.88坪)
  • 建築面積/2039.03m2
  • 延床面積/4469.23m2(1階/2003.04m2、2階/1798.33m2、地階/667.83m2)
  • 構造/1・2階/枠組壁工法(木造耐火構造)、地階/RC造
  • 設計監理/(有)吉高綜合設計コンサルタント
  • 施工会社/安藤建設(株)
  • 設計期間/2004年12月~2005年11月
  • 施工期間/2005年11月~2006年6月