

木のやさしさを誰もが感じ取れる...そんな空間を創造していきたい
有限会社 吉高綜合設計 コンサルタント 代表取締役 1級建築士 吉高 久人 氏
高齢化社会の到来が明らかでありながら、日本の高齢者施設に関する設計ノウハウは諸外国に比べ、たち遅れたまま今日まで来てしまいました。これまでの高齢者施設は、どうして病院や療養施設の延長のような画一的な冷たい鉄筋コンクリートの建物ばかりなのか?それは日本の建設業界全体に脈々と続いてきた問題でもあります。1970年代のベビーブーマー、いわゆる団地族の爆発的な拡大を受け、鉄筋コンクリートの方が木造に比べ耐火・耐熱・耐震・耐久性で数値的に勝るという当時の一元的な理由。以来、ほぼ当時の価値基準にとらわれたまま、集合住宅や公共施設の建設といえば、RC工法一辺倒の発想になっていってしまったのです。そこから派生して「木造の方が高くつく」という根拠のない誤った認識も生んでしまいました。もともと木を使うことがうまい日本の建築文化は衰退の一途にあると言わざるをえません。
私はこうした現状を危惧し、木造設計の新しい可能性を追求しながら数々の物件の設計を手がけてきました。しかし、2004年にカナダ林産業審議会(COFI)と日本ツーバイフォー建築協会が共同でツーバイフォー工法について耐火構造の認定を取得できたことが象徴するように(※参照)、ここへきてようやく木造建築の優れた特性......耐火性、耐熱性、耐震性について木造はRC造に何ら劣る物ではない......という再認識・再評価がされつつあります。「地球温暖化/環境問題」という国際社会の要請からもこれからはRC工法から木造建築にシフトするべきと考えられています。資源調達や加工、輸送など、竣工までに費やされるすべてのエネルギー消費を換算すると、木造のCO2排出量はRC造の実に1/2以下なのです。もちろん「人にやさしい」という介護の大命題についても、音・光・空気・香り・感触など、五感を通じて心身にはたらきかけてくる癒しの作用には計り知れないものがある。この冊子で皆さんが証言してくださっている通りです。
今回、建築業界・福祉業界の両方にとってほとんど前例のなかったツーバイフォーによる『明治清流苑』と『はるかぜ』の設計は、私にとっても大きなチャレンジでした。木造の特性を生かし、入居者と介護する側の視点でどこまでやさしくできるのか、設計図通りいかに建てるか、コストと納期管理...など、試行錯誤を極めました。私一人の知識では限界があり、構造設計は東京で、フレーミングは福岡で、構造ソフトは北海道でと、およそ全国を巻き込んだ一大プロジェクトとなりました。その甲斐あって、予想していた以上に皆様に高い評価をいただき、これからの介護施設の一つの理想型を提示できたと思っています。現場には私専用の車椅子があり、利用者の目線からつねに改良点はないかと研究を重ねています。また、耐火認定の内容に関しても、私たち現場から課題・問題点を専門機関に上げ、いっそうの改善を働きかけていきます。
(※参照)カナダ林産業審議会(COFI)と日本ツーバイフォー建築協会の協同により、ツーバイフォー工法の主要構造部すべてにおいて、耐火構造としての国土交通省大臣認定を2004年4月に修得。木材を強化せっこうボードやアルミニウム箔で耐火被覆することにより、木造建築物が耐火構造として日本で初めて認められた画期的な基準です。これにより、木造ツーバイフォー建築物に対する階数や面積並びに用途上の規制が大幅に緩和され、防火地域でのツーバイフォー住宅(100超)や4階建ての共同住宅、さらには商業施設、ホテル等の建設が可能になりました。
特養施設で利用者の満足度を高めるために、ますます居住性と安全性が重視される
独立行政法人福祉医療機構(WAM) 福祉貸付部長 中井 孝之 氏
介護保険法が施行された2000年以降、民間事業者の福祉サービスへの参入が拡大するのと同時に、利用者と事業者との間は“契約関係”になり施設の運営側には経営に対する責任が求められることになったわけです。私たち独立行政法人福祉医療機構(WAM)は、福祉・医療に関係する民間活動の長期的な安定経営・運営を、主に『政策融資』『情報提供』『経営指導』等の様々な面からサポートしています
主な融資先は、社会福祉法人や医療法人等となっていますが、各種のサービスが提供されている中、私たちが最近特に注目しているのは“特別養護老人ホーム”です。融資の8割を占める特別養護老人ホームで収支がうまくとれるかどうかが大変気になるところです。私はこれからの介護施設の運営には、“利用者はどんな生活を送りたいのか”かつ“その上で効率化をはかる運営手段は何か”について、最新の情報収集が必要不可欠だと感じます。例えば、利用者が施設に対して満足を感じるかどうかのポイントの1つとしては“食事”だと思います。日課の時間に沿って画一的に提供する給食ではなく、温かい食事を利用者の状態に合わせてゆったりと幅をもってその人のリズムで食べることができるシステムはどうしたら良いか。利用者のニーズに合わせた調理、働く人にとっても快適な調理環境、提供コストをダウンできる器具など、具体的な食事提供システムとしての設備面・設計面での話になってくるわけですが、なかなかそこまでお考えになられている運営者は多くないのが現状です。
現在、全国の介護施設で90万床弱とされるベッド数を2023年までにさらに16万床整備するよう国において目標が示されていますし、すでにある90万床のうち、築30年以上の建て替え期を迎えた物件と合わせると、相当数の施設整備が必要と思われます。最近登場した、新たな可能性をもった“木造耐火施設”という選択肢。減価償却がRC造の39年に比べ、木造は17年と短く、まず資金運用上有利でありながら、建物はそれ以上の年月にわたる耐久性を実現できると期待されています。また入居者をはじめとする皆さんの体験談にあったように、骨折などのリスクが低い安全性や精神的な落ち着きがもてる家庭の延長線上の居住性など、木造ならではの人にやさしい親和性の高さもうかがってっています。
私たちWAMは、まず整備に要する資金を長期・低利・固定でお貸しすることを前提に、地域ごとの特性の調査・分析も含めて『地域の特性に対応した施設の姿』をご提案しています。つねに最新の整備状況、経営ノウハウが集まっている私たちに、まずはご相談ください。
資金融資その他についての詳細はホームページまで・・・
http://hp.wam.go.jp/
木造施設はいわば漢方薬。入居者、職員にじわっと確実に効いてきます
株式会社 日本経営 戦略人事コンサルティング 堀田 慎一 氏
介護に関係するマーケットは、この30年間で6倍の市場拡大をしていますが、すべての産業に当てはまる成長~成熟~衰退のサイクルについて、介護ビジネスも例外ではありません。介護ビジネスの中でも特別養護老人ホームをはじめとする施設経営の分野は、現在成熟期の段階といえると思います。さらに成熟度の段階としてとらえてみると......施設を作れば入居者がいらっしゃる“生産者指向”~いかにPRするか方法を考える“販売者指向”~利用者が何を求めているかを考える“マーケティング指向”~利用者の要望をいちばんに優先する“消費者指向”~そのサービスが社会にとってどれくらい大事かの視点で考える“社会指向”......というステップから考えると、介護ビジネスは“消費者指向”から“社会指向”に向かうフェーズにあると見られます。つまり、サービスの要素一つひとつに修練をつんで介護の質を上げていかなければ、この先、利用者および地域社会から選別されてしまうということです。
私は専門として主に人材マネジメントの面から、経営ノウハウをお伝えしています。介護施設の運営は人材のモチベーションを高め一定の質の担保をはかっていくことがきわめて重要です。働く人たちのモチベーションを高めるためにも、木造の施設だけがもつ五感で感じるここちよさは大きなプラスになると私も思います。たくさんのRC造の施設を見てきた経験に照らし、私がまず木造の施設に感じるのは「光の反射がやさしい」ということです。建物の中と外、あらゆるところで感じます。そして、天井がRC造と同じ低さだとしても、RC造ほどに圧迫感がないのです。その他の効果についてはスタッフの方々の感想にある通りですが、木造は男性よりも特に女性にとってうれしい効果を発揮すると思われます。女性が2/3を占める介護の職場ですから、木造かRC造か建物の良し悪しはソフト、ひいてはハート面(職場の雰囲気、職員同士の人間関係、メンタルケアなど)のサービスの質にも影響を与えることでしょう。......総括するなら、これからの質の高いサービスとは、施設を自宅に近い“住まい”に近づけてあげるということなのです。
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