カナダ林産業審議会 www.cofi.or.jp カナダ林産業審議会 - トピックス
































木造福祉施設 Wood Frame Construction Social Welfare Facilities

NGOのモデルルーム

NGOのモデルルーム

カナダの高齢者施設/高齢者住宅

三浦 研

大阪市立大学大学院 生活科学研究科 准教授

今回、COFI主催のカナダ高齢者施設見学ツアー(2008年10月)に参加して感じたこと や興味深かった点を、わが国の高齢者施設やケアを調査研究する立場からまとめた報告書より、要約したものを以下に紹介する。

●高齢者住宅の明快な費用設定

カナダでは、高齢者住宅の費用負担が、税引き後所得の7割と明快に設定されている(こ の費用の中には、家賃、介護費用、1日2食の食事費用が含まれる)。これに対して、わが国ではH17年10月から特養においては、食費や居住費相当を利用者が負担する仕組みとなり、高齢者住宅においても、食費、居住費、介護費用など、それぞれの費用が利用料として請求されるため、将来、年金の金額では不足する、という不安が残る。しかしカナダでは、税引き後所得の7割という費用設定は、年金などの収入が減っても、同じ生活が保証される点で極めて安心感のあるシステムだといえる。

一見、負担が多いように思えるが、生活に係わるほとんどの費用が含まれているため、3割の所得が確実に手元に残るといえる。

高所得者も低所得者も、高齢者住宅で同じ暮らしをする点は、ある意味、平等で公平な社会であろう。そうした仕組みが受け入れられている背景には、行政に対する信頼感があるのかもしれない。

●高齢者住宅から特養へのリロケーション

高齢者住宅の運営面において興味深かったのは、「一人当たり1.5 時間以上の介護/日が必要になった場合」と、特養への退去要件が明確にされている点であった。なぜ、一人当たり1.5時間以上の介護/日なのか、という点については、職員:利用者=1:6という高齢者住宅の配置基準において、一人の職員が利用者を公平に見るには、1.5時間が上限という計算に基づくようである(8時間÷6人=1.5時間)。しかも、退去要件に達し、特養の受け入れが整った場合、36時間以内に空いた特養に移動しなければならない。

このように、カナダでは高齢者住宅の守備範囲や役割についてドライに割り切れていると感じた。自分も含めて、わが国ではこの割りきりができないゆえに、高齢者住宅の計画や運営に迷いや混乱を生じているようであり、大いに参考となった。

●NGO による高齢者住宅の整備

わが国では、宗教を母体とする社会福祉法人は多数派ではないが、カナダにおけるクリスチャンコミュニティーは、デベロッパーではないかと勘違いするほど、立派なモデルルームを持ち(写真)、介護に大きな役割を果たしている。特に視察したElimの高齢者住宅整備システムには特筆すべきものがあった。

第一は、地域に根ざした資金の集め方である。コミュニティーファンドとして、地域の出資者から資金を集め、公定歩合+1%で利子を支払うシステムを採用していたことだ。

北米大陸における、NGOやNPOは、わが国とは比較にならないほどの歴史を有し、ビジネス・組織をしっかりと確立していることを実感した。

第二に、4000万程度の高額の高齢者住宅を分譲する方式だが、退去や死去された場合、Elimが購入時の95%の金額で買い戻すシステムを採用していた点だ。多少、頭金が必要だが、実質的に5%の購入金額で住むことが出来るのは驚異的といえる。この10年間、北米大陸の地価が上昇し続けたからこそ可能になったシステムといえ、わが国にそのまま取り入れられる方法とは言えない。しかし、地価の下落リスクや減価償却費を考慮しても、50%程度の返却率であれば、わが国でも実施できるかもしれないという意見が、ツアーに参加した社会福祉法人の方から寄せられた。
50%程度の返却率で、こうした方法が実施できれば、わが国でも事業者の建設時の事業資金の調達が容易になり、一方、入居者にとっても、長生きしても家賃や住居費の心配をしなくても済む。家賃を支払い続ける場合、資金が底をつかないか不安になるが、分譲であればそうした心配はない。仮に短期間で死去したとしても、安心感を得たと思えば高い買い物ではないし、何よりも一定の資金が戻るのであるから、新しい手法としてわが国でもニーズはあるだろう。

●文化

今回のツアーのなかで、ニッケイホームを見学したことも収穫の一つであった。BC州の高齢者住宅の制度の基本となったのが、ニッケイホームであったという点は、日本から高齢者住宅を調査する立場の研究者としては、奇遇であり、興味深かった。

また、高齢者と文化というのは、深い関係性があるため、カナダという土地において、我が国の文化が高齢期の生活にどのように影響を保持しているのか、という点に関心を寄せ見学した結果、日本の高齢者以上に、日本文化を意識したインテリアをディスプレイしている点が興味深かった。異文化ゆえに、自己のアイデンティティを強く意識したのだろう。

●ドア

西洋文化では、開き戸が一般的だが、介護が必要なった場合、車いすで開け閉めしにくい。これがどのように解消されているのか、関心を持って視察した結果、特養等では、車いす利用となると、仕方なくドアは開きっぱなしとなるのが実際のようであった。一方、高齢者住宅では、自立度の高い車いす利用者がどう対応しているのか、確認した結果、住戸が広いのでドアの横に車椅子を寄せることで、ドアの開閉が可能とのことであった。この点については、いままでは想像範囲でしかなかったが、実際に確認できたことは大きな収穫であった。