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木造福祉施設 Wood Frame Construction Social Welfare Facilities

高齢者施設/住宅の未来を探る VOl.1

木材を活用した高齢者施設/住宅

高齢化にともなう諸問題のひとつに、「住まいをどうするか」がある。体力の衰えとともに具体的なケアが必要となる高齢者にとって、「住まい」と「介護」を切り離して考えることは不可能だ。そのような状況下で、最近の高齢者施設や住宅がどのような流れになっているのか、国立保健医療科学院施設科学部の井上由起子氏に話を伺った。

井上 由起子

国立保健医療科学院 施設科学部 施設環境評価室長(工学博士)

「収容」から「居住」の場へ
そこに介護のしやすさをプラスする

高齢者施設というと、4人部屋に大食堂、一般浴槽など集団で生活するイメージが未だにある。それが、このところ「住まい」として提供しようという動きになってきているという。「施設」と「住まい」は、何が異なるのだろう。井上氏は「その人が、最終的に生涯ここに住もうと思えるかどうかにある」という。建物というハードがあっても、「ここでもう一度生活を作り直そう」と思えなければ一時的な「収容」でしかないということだ。

では、「住まい」に必要な視点とは何か。井上氏は、まず「個室」をあげる。プライバシーやアイデンティティを確保できる環境でなければ、居住性は高まらない。利用者は、集団で生活がしたくて入居しているわけではなく、自宅での生活に不便があるから利用しているに過ぎない。その人がそれまで生活してきた環境を再現できてこそ、 「住まい」として受け入れられるのだ。

次に、安全性の確保がある。身体機能の衰えた高齢者にとって、バリアフリーや手すりの設置、転倒時に大事に至らないような床材の選択など日常生活をより安全にするための配慮は欠かせない。さらに、集団生活特有の安全性も押さえなければならない。地震や火災、感染管理など、病院と同じ視点も必要だ。

流れの根底にあるのは、これまでは「介護しやすい場」の提供を行っていたけれど、今後は「暮らしの場」を提供し、そこに介護のしやすさをプラスしていくという考え方で、良好な運営の要素となっていくものだ。例えば、「居室内にあると便利」ということからカーテンで仕切られたトイレが設置されていることがある。介護する側にとって開閉の楽なカーテンは便利かもしれないが、そこに暮らす立場で考えれば「好ましい住まい」とはいえない。入浴に関しても、一人の利用者に対して数人のスタッフで、流れ作業のように「洗う・流す」を行われたのでは、「風呂に入る」という満足感は得られない。「微妙だけれど、確実に異なる部分」と井上氏は指摘する。

集団ケアから個別ケアへの変化を支える動き

ここにきて、新たな流れが高齢者施設におきている。そのポイントは、ふたつある。ひとつは、建築基準法に追加されている厚生労働省の上乗せ基準の緩和だ。高齢者専用賃貸住宅には上乗せ基準は殆どないが、特養や老健、有料老人ホームなどは上乗せ基準により、木材というだけで門前払いされていた時代もあった。施設火災による被害者が出たことで設けられた基準だが、木材の耐火技術が進んだこと、スプリンクラーの有効性が認められたことで、順次緩和されている。

現在、木造でも一定の基準を備えていれば、木造平屋の特養が可能になっている。行政の動きとしては、大きな前進といえよう。これに加え建築基準法が仕様規定から性能規定に変わり、木造の防耐火技術が進んだこともあり、木造でも防耐火が可能となったことも見逃せない。

もう一つは、事業の運営において医療福祉事業と不動産事業を分離する動きだ。高齢者施設/住宅を建物と運営の双方の観点から研究している井上氏は、「これまでの高齢者施設は診療報酬・介護報酬・補助金で建築に関する費用をまかなっていたが、これからは住居部分は原則として居住費、ケア部分は介護報酬や診療報酬などでまかなうといったコスト意識を持たなければならない」と話す。

建物に補助金が出ていた時代はコスト感覚がなくても運営できたが、今後は難しくなるということだ。安全性を担保しながら居住性の高い建物を造るには、質の高さを保つべき所と不要な所をきちんと把握する必要がある。わかりやすいところでは、空調は個室ユニットなら個別にするだけでかなりのコストが削減できるという。「建設マネジメントを適切に行えば、質を落とさずに安価な建物を作ることも可能では」と井上氏も期待を寄せている。

コストコントロールにおける木材の優位性

居住性や安全性などの質を保ちながら、建設コストを削減するのが至上命題となるこれからの高齢者施設や高齢者住宅。一見相反する2つの命題を解決するのに役立つものの一つに、木材の活用がある。木材のメリットは、転倒が大事に至らない弾力性や調湿作用、吸音力など安全・快適性を実現することと、コスト的な安さがあげられる。また、地球温暖化対策への影響も見逃せない。

そして最大のメリットは、利用者の居住性の良さだろう。日本の住文化としてなじみやすいことはもとより、木の持つ暖かさ、癒しの作用は大きい。手を加えやすいことから、壁に釘を打ってピンナップを飾るなど、「自分達の家」という意識を持ちやすいのも魅力だ。床が木材になることで冷たさを感じることなく靴を脱ぐ暮らしができ、「床が汚くない」という意識から気軽に座り込んだり、重心が低いことで自宅と同じようにくつろぐことができる。また、スタッフもヒザをついてのケアが可能で、床材の柔らかさから腰痛負担の軽減にも役立つ。

課題となるのは、街中立地となったときの耐火性をさらに上げていかなければならないこと、汎用性の高い木材の確保、木造を得意とする施工業者の選定、断熱性能の確保、木材流通システムなどがある。建築後には、木材のメンテナンスを事業者がプラス思考で捉えることも大切だという。

設計の担い手も、福祉施設や医療施設の設計の専門家のみならず、住宅を手がける設計者へと広がってゆくという。いずれにしても利用者である高齢者にメリットがあってこそ、施設が「住まい」になりうるわけで、木材がひとつの選択肢として注目されていくことは間違いない。

対価規制の緩和で木材使用を推進(厚生労働省)